何も起こらない毎日。繰り返される日々に飽き飽きしていた。自分のまわりでなにか大きなことが起こらないか、いつもそう思っていた。
 そんな16才の少年――野田誠也は家の前で愕然としていた。そこには宇宙船があったのだ。彼が一生働いても手に入らないであろう最高級の個人用宇宙船だ。
 彼の顔にあったのは困惑。しかし、それだけではない。彼の顔には困惑以上に絶望の表情があった。そして、彼は地面にへたりつき、つぶやいた。
「そりゃなんか起こってほしいと思ってたけどよぉ、いくらなんでもこりゃねーだろ・・・」
 なぜなら、その時彼の家はその宇宙船につぶされていたからだ。


「どーして俺はこんなところにいるんだ?」
 誠也は高級ホテルの一室にいた。それも最上階のロイヤルルーム。普通なら彼には一生とまることは出来ないような部屋だ。
 その部屋には人影が二つ。一つは誠也のもの、もう一つは彼より1、2才年下とおぼしき少女――彼の家をつぶした宇宙船から出てきた少女のものだった。
「家が壊れたから?」
「壊した本人に言われたくねぇ!」
 さて、情報を整理しよう。誠也はそう思い、今までの経緯を思い出すことにした。

 1、家に帰ってきたら家が宇宙船につぶされていた
 2、宇宙船の中から女の子(美少女)が出てきた
 3、気がついたら周りには大量の黒服。そしていきなり発砲。
 4、俺逃げる。なぜか女の子もついてきた。そして予想通り黒服も。
 5、女の子に連れられてなんとか黒服を撒く。
 6、よく分からないがそのままホテルへゴー。(今ココ)

 オーケーオーケー情報を整理してもワケわからねぇことがよく分かった。
 てかなんで家が壊されて、黒服に撃たれて追いかけられてんだ俺? しかもなんで見知らぬ女の子とホテルに?
 そこまで考えたとき、誠也は一つの可能性にたどり着く。
「お前が黒服に狙われてるってオチじゃねーだろーな?」
「大正解。ブイ。というか気がつくの遅い」
 やべぇこいつ殺してぇ。こいつのせいで家は壊れて、俺は銃を持ったおっかねぇ黒服に追いかけられる。家どころか命までとられかねん。
 ・・・まてよ? 黒服に追いかけられてるのはそこにいる女だ。てことは、俺はこいつから離れれば黒服とはおさらばだ。
 そう考え、誠也が部屋から出ようとドアの前まで移動したとき、少女が口を開いた。
「あらかじめ言っとくと、あの黒服は目撃者も消す」
 その一言で誠也は部屋の中に引き返した。
「やべぇ俺死ぬ。絶対死ぬ。親父ぃ、おふくろぉ、先立つ不幸をお許しください」
「大丈夫。あと数時間逃げ切ればあの黒服はいなくなる」
「そ、そうなのか!? ならそれまでここに隠れてれば」
 誠也がそういった瞬間、部屋のドアが爆発音と共に吹き飛んできた。誠也が驚き部屋の入り口を見ると、そこには黒服たち。もちろん全員銃を構えている。
「俺オワタorz」
「そんなこといってないで早く逃げる」
「逃げるっても入り口ふさがれてんだぁあ――!?」
 少女が誠也の腕をつかみ、窓からダイブした。当然誠也たちは落下。
「ここ高層ビルなんですけど!? 死ぬ俺死ぬうううぅぅうっ!?」
「問題ない」
 少女はそう言った直後、突如落下が止まった。
 着地? まだ空の上のはずなんだけど・・・?
 誠也がそう疑問に思い周りを見たが、地面などどこにもない。誠也たちは空を飛んでいた。
「な、なんで?」
 少女はいつの間にか頭の上につけていたものを触りながら誠也の疑問に答えた。
「タケ○プター」
「タ、タケコ○ター? その頭の上につけてる物のことか・・・?」
「そう。頭の上につけてボタンを押すだけで空を飛べるスグレモノ」
「明らかに物理法則を無視してるとかそういうことはおいとこう。さっさと逃げようぜ!」
「うん。あいつらも銃構えてるからそれには同意」
 少女の言葉を聞いて誠也がホテルのほうを見ると、黒服たちは窓から誠也たちのほうに銃を構えているのが見えた。
「マジで早く逃げようてか逃げて逃げて頼むから」
 誠也の言葉に少女はうなずくと、黒服たちから離れる方向に飛んでいった。


「ここまでくれば安心。たぶん」
「た、たぶんとか言うなよぉ・・・」
 誠也たちは今、ある建物の地下室にいた。少女が言うにはここは研究所だそうだ。
 ここに来るまでの間、誠也は少女からこの状況についての話を聞いた。
 まず少女の名前は源千秋ということ。彼女の祖父は発明家でさっきのタケ○プターも祖父の発明品だということ。
「補足説明。祖父は祖父が子どものころにやっていたアニメに出てきた道具を実際に作っただけ。アイデアは別人の物」
 そして、彼女の祖父はタケコ○ターだけでなくさまざまな道具を作ったらしい。
「それらの道具を総称してひ○つ道具という」
 そしてひみ○道具はすべて千秋が持っている四次元ポ○ットに入っている。
「四次元○ケットには出口が二つある。このポケットの出口とスペア○ケットという予備の出口」
 千秋から聞いたことで誠也がおどろいたのは、先日発明家の祖父が亡くなったこと。そしてその祖父の遺産であるひ○つ道具を狙って黒服たちは千秋を追っているということだ。
「ひ○つ道具は便利な反面とても危険。悪い奴に渡すわけにはいかない」
 この件についてはすでに警察が動いており、あと数時間の間に黒幕がつかまり事件は収束に向かうらしい。これをきいて誠也は安心したのだが。
「しかし誤算が一つ。彼らは自分が捕まろうとしていても逃げも隠れもせず私を狙ってきた。おそらくひ○つ道具さえ手に入れれば警察程度どうにでもなると考えているのだろう」
 そこで彼女はセキュリティが頑丈な祖父の研究所に逃げようと個人用の宇宙船に乗り逃走するも撃墜され、その落ちた場所が誠也の家の上だったのだ。
「家のことは申し訳ない」
「それはいい。とは絶対いえねーけど、今はそれどころじゃねーなぁ」
 そのあと彼女が直接この研究所に行かずホテルに行ったのは、会ったばかりの誠也を研究所に連れて行くのに気が引けたとのことだった。
「ひ○つ道具ほどではないがここにも危険な物は多い。知らない人はできれば入れたくなかった」
「でも結局入れてくれたよな。サンキュ」
「礼を言われることではない。そもそもあなたが狙われてるのも私が原因」
「それで、ここならその悪い奴が捕まるまで篭城できるのか?」
「おそらくは。保証はないが」
「すげー心配だ・・・」
「とはいえここならつかまってもあまり心配はない」
「え? なんでだ?」
「この研究所には超絶セキュリティの金庫がある。これは数時間ではまず破れない。四次元ポ○ットはそこに入れておく。これでもし私が捕まってもひ○つ道具は安全」
「そっか金庫があるのか。なら安心だな」
 そのとき、誠也はあることをひらめいた。
「なぁ、四次元ポ○ットの中に道具は全部入ってるんだよな?」
「そう」
「それでスペアポ○ットってどこにあるんだ?」
「警察内。黒服はスペア○ケットの存在を知らないから安心」
「それで、四次元ポ○ット自体もポケットの中に入るのか?」
「裏返せばポケットもポケットの中に入る」
「それって俺たちが四次元○ケットごとポケットの中に入ってスペアポケットから出てくれば万事解決じゃね? 黒服はスペアポケットの存在を知らないんだから」
「・・・おぉ。その手は考えてなかった」
 ポケットで警察内に移動した誠也と千秋は、黒服たちが捕まるまで警察内でまったりとすごしたのだった。


 その夜、高級マンションの一室。
「なんで俺はこんなとこにいるんだ・・・?」
「誠也の家は壊れてる。直すのも時間がかかる。私の家は壊れてない。だから誠也はここにいる。何か疑問が?」
「だからってなんでお前の家にいるんだ俺?」
「他に住む場所ある?」
「いや、ないけどよぉ」
「だったらここに住めばいい。何も問題はない」
「いやいや問題あるだろ!? 男女が同じ家とか!」
「私は気にしない。だから問題ない。私はもう寝るから。誠也は隣の部屋使って」
 千秋はそう言って自分の部屋に入っていった。
 一人取り残された誠也は叫んだ。
「なんか起こってほしいと思ってたけど、これはおこりすぎだろおぉー!」
「誠也うるさい。もう夜だから近所迷惑」
 パジャマ姿の千秋が部屋から顔を出し文句を言った。
「あ、悪い」
「おやすみ」
「あぁおやすみ」
 こうして誠也のこれまでの人生で一番騒がしい日は終わりを告げた。
 もっともこれからの誠也には騒がしい毎日が待っているのだが、それは別の話。


あとがき



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